どこか狂っている人が、本物のクリエイターになっていく。
佐藤浩平/クリエイター育成

「バックステージトーク」の第2回は、クリーク・アンド・リバー社にてクリエイター育成事業の責任者を務め、ゲームやCG業界を中心に、6年間で500名以上のプロクリエイターを輩出してきた佐藤浩平(さとう・こうへい)さんにお話を伺います。
映画監督やデザイナーを志すも、“あるきっかけ”から、クリエイターを育成しプロの現場へと送り出すエージェントになった佐藤さん。クリエイティブとビジネスの間にいるからこそ、見えること。本物のクリエイターになる人の共通点、必要とされるクリエイターの特徴、そして佐藤さんのこれからの展望についても、力強く語っていただきました。
「映画監督になりたい」 すべてがはじまった、予測不能な人生の旅。
■ まず、佐藤さんのこれまでのキャリアについてお聞かせいただけますか?
高校時代は、ごく普通の学生でした。ただ、映画監督になりたいという夢がありました。映画を通じて、人の感情を動かすことに魅力を感じていたんです。
すぐにその道に進みたいと思ったのですが、親からは猛反対。大学進学には興味がなかったのですが、「大学だけは絶対に行け」と厳命されたんです。
目的意識がないまま、渋々大学に行くことになりましたが、キャンパス内にあった『映画ルーム』にこもり、ただ映画を見て過ごす日々を送っていました。
■ その映画ルームでの日々が何かを変えたのでしょうか?
ニュースなどで世界各地で起こっている貧困や戦争の現状を見る中で「自分は映画を見ているだけで何もしていないな」と思ったんです。自分を変えたくて、ふと目に入ったカンボジアのボランティア活動に参加してみようと、思い立って行動してみました。
そこでひとつの転機が訪れました。医学生であり、カンボジアに関わるボランティア団体の責任者でもある方と出会い、その活動に参加しました。それは今までの自分の生活とは全く違う経験で、どんどん活動にのめり込みました。そして自分でもメンバーを集めサークルを立ち上げ、カンボジアのボランティア活動をするようになりました。その後、ボランティア活動をするきっかけになった責任者の方と、カンボジアの現状を取材するドキュメンタリー映画の制作をすることになったんです。危険な場所での取材を経験したり、とにかく刺激的な日々でした。
しかし、取材最終日の直前に強烈な腹痛を感じ、現地の病院にいった結果、盲腸が破裂寸前だと診断されました。カンボジアでは手当ができず、痛みをこらえながらタイに渡って手術を受けました。一時は命の危険も感じたほどでした。
■ すさまじい経験ですね・・
家族にも大変な心配をかけてしまいました。そんなこともあり、ふと自分の中の何かが切れてしまい帰国した後はしばらく、燃え尽き症候群のような感じになってしまいました。半年くらい引きこもりのようになり、何もできませんでしたね
そんな生活をしていたある時、叔父から『浩平、一回でいいから、一番やりたくない仕事をやってみろ』と言われたんです。
自分が思いもしなかった仕事を経験してみるのも、自分を変えるきっかけになるかもしれないと思い、偶然募集を見つけた羽田空港の清掃員として、約1年半ほど働きました。
それも後になってみると自分のターニングポイントだったのかもしれません。
そうこうしているうちに、自分の中でまたふつふつとクリエイティブな仕事に挑戦したいという意欲が湧いてきました。
クリエイターからエージェントへの転身——自分では気づかない可能性を見出してくれた。
■ そこからエージェントの仕事に出会うまでには、どのような経緯があったのでしょう?
その後、プロのクリエイターになるべく、東京デザインプレックスに入校し、Webデザインを学びはじめました。
当然、自分はプロのクリエイターになるつもりだったのですが、ある方に『君はクリエイターよりも、エージェントに向いていると思う、クリエイターと企業をつなぐ仕事をやってみないか?』と声をかけられました。
クリエイターに向いていないと言われて悔しい気持ちもありましたが、その方の真剣な目や情熱的な仕事ぶりに心が動かされ、これも何かの縁かもしれない、エージェントの仕事に挑戦してみようと思ったのです。
そのような経緯で、クリーク・アンド・リバー社に入社し、私自身のエージェントとしてのキャリアがスタートしました。
■ エージェントとして働き始めて、どのような気づきがありましたか?
最初は自分が本当に役立てるのか不安でしたが、クリエイターが成長し、プロとして活躍する姿を見る中で、自分の役割の意義を強く感じるようになりました。
夢を持つ人を支え、導く仕事の魅力に気づき、それが次第に自分のやりがいになっていきました。
未経験クリエイターがプロになる壁。その課題に挑みたい。
■ エージェントとして活動をはじめて、直面した困難はありましたか?
ある時、デザインスクールに通っている学生たちのポートフォリオを見た際、「就職レベルに達している人が少ないと感じたんです。4年間も通っているのに就職出来るレベルに達していないのは何故だろうか」と疑問に感じました。
その原因を分析していくと、様々な課題があることに気づきました。まず、入口の部分で「絶対に就職する」という本気の人を集められないこと、そして「絶対に就職させる」仕組みや環境になっていないことは大きな課題だと感じました。育成する側にも「全員を就職させる」という強い思いが絶対に必要です。
また、スクールに通う為には多額の費用が必要です。高い学費を払ったうえでクリエイターとしての就職ができるか分からないという状況は、未経験者にとってはかなりリスキーであり、ハードルが高いとも感じました。
かつての自分がそうであったように、「お金はないけれどやる気はある!」という若い人に対し、プロのクリエイターへの道筋が提供されていないという課題に対して憤りを感じたと同時に、絶対に解決出来るはずだと考えていました。
■ 具体的にはどのような方法で?
当時、ゲーム業界では、クリエイターの人材不足が大きな課題となっていました。
猫の手でも借りたいという業界のニーズに対し、やる気がある本気の人材で、スキルも磨けば未経験でも採用してもらえるのではないかという感触がありました。
そこで、会社と何度も議論を重ね、未経験からプロを育成する「クリエイティブアカデミー」を設立しました。
プロクリエイターを目指す若い人から受講料を取るのではなく、まずはやる気のある未経験者を集め、短期集中型でゲームクリエイターを育成し、ゲーム・CG会社に紹介し、採用してもらう形に挑戦したのです。採用された場合は、人材紹介料を制作会社からいただくというビジネスモデルです。
採用成立時に紹介料をいただくことは、人材紹介業としてはオーソドックスなスキームですので、特別変わった形ではないですが、未経験クリエイターを集めて、無料で育成するという部分については、上手くいく保証はないので、当時は大きなチャレンジでした。
そして生まれた、クリエイティブアカデミーのプロ育成モデル。
■ 何名くらいのプロクリエイターを輩出しているのでしょうか?
初年度に、いきなり50名がゲーム業界に就職して「これはいける」と確信しました。翌年には100名、その後現在まででトータル600名以上の就職実績をつくることができています。業界の就職率も90%を超えています。
「熱意はあるが、どう行動すればよいかわからない」という若い人はとても多いです。
そのような熱意を持つ人に、社会経験のある大人が本気で向き合い、支援すれば必ず結果につながる。単なるエージェント業ではなく、未経験からプロクリエイターを育成し、プロの現場へ送り届けて、活躍してもらうことは可能です。600名を超える卒業生がそれを証明してくれています。
■ 6年間で、業界から求められるニーズや受講生の意識など、変化したことはありますか?
根柢の部分では大きくは変わりないと思います。
一方で、ゲーム業界に関しては、流行するゲームのジャンルの移り変わりは早いです。ソーシャルゲームの開発案件が多かった時代は、クオリティよりもスピードが求められる傾向がありましたが、今は逆にしっかりと作り込める高いスキルが求められています。
また開発に使うツールもどんどん進化していますので、学習する環境においてもその対応が求められています。
受講生については、クリエイティブアカデミーの知名度が向上してきたことで、「無料だからではなく、クオリティが高いから」という理由で本気度の高い優秀な人材が集まるようになってきています。これはとても嬉しいことです。
■ 今後のクリエイティブアカデミーの展望についても教えてください
これまでゲームやCGの領域で実績を上げてきましたが、プロクリエイターを育成する形としては、他のジャンルにも拡大をしていきます。
2024年からは、未経験からプロのWebデザイナーを育成する「C&R Web Academy」を立ち上げました。Web業界は、またゲーム業界とも似て非なる部分もあり、クリエイティブとビジネスの両方の力を必要とされる業界です。
強力な講師陣とともに、現場でより高いニーズに応えられるプロのWebクリエイターを輩出していきたいと考えています。
本物のプロになれ、狂っている人こそがプロになっていく。
■ 佐藤さんが考える、本物のクリエイターになるために必要な資質とは?
どこか狂っていることだと思います。
恥ずかしさやプライドをすべて捨てて、「自分が本当にやりたいことはこれだ!」と素直に向き合い続けられる人。そういう人は、プロになって活躍し続けていると思います。
僕自身、クリエイターを目指して苦労した過去があるので、未経験者がプロになるまでの壁がどれほど高いか痛感しています。だからこそ、本当にクリエイターになりたいと思い行動できる人が、その壁を乗り越えられる仕組みを作りたかったんです。
私がこれまでの人生で出会った尊敬できる人は、どこかみなさん狂っている部分があります。常識にとらわれずに、目指していることに熱中し、自分をさらけ出して、時には恥をかきながら、ひたむきに行動しています。
言葉で「やる気はあります!」ということは誰でも言えますが、実際に行動が伴うかどうかが大切です。どうすればプロになれるかのアドバイスやヒントに対し、それを受け止めて実行に移せるかどうかがすべてだと思います。
クリエイターの育成モデルは、大きな可能性を秘めている。
■ 最後に、今後の佐藤さんの個人の展望について教えてください。
これからは、言われたことだけをやるクリエイターは淘汰される時代になるでしょう。
より深く思考し、第三者のことを考えながら、アウトプットできるようなクリエイターが必要とされていくでしょう。
その意味では、私は、本当のクリエイティブとは「やさしさ」ではないかと思っています。
相手を思いやる力、それに対して、創造性から解決案を導き出せる力。クリエイターはそれができる最高の職業だと思います。
クリエイティブの力は、ゲームやWeb業界に限らず、様々な部分で役立てるはずです。
将来的には、クリエイターの育成モデルを応用し、様々な社会課題に対し、解決案を創造できる人材を育成するようなスクール事業をつくっていきたいとも考えています。
聞き手/執筆:佐野 彰彦(株式会社それからデザイン)

佐藤 浩平(さとう・こうへい)
株式会社Eureka Creative Works 代表取締役/C&R Creative Academy 塾長。 2018年よりC&R Creative Academy、2021年にGame Engineer Academyを立ち上げ、運営を行っている。同アカデミーからゲーム業界に就業する人材は年間100名を超える。2024年には活躍し続けるWebデザイナーを育成するためC&R Web Academyを新設。 今後はクリエイターの就業数・生徒数日本No1を誇るスクールを目指している。